継続することはお客様を裏切らないこと~インド料理レストラン マユール(東京都立川市)~
継続することはお客様を裏切らないこと
インド料理レストラン マユール (東京都立川市)
取材/佐々木美香(サリーズ)
■「金曜は暇だから定休日にしよう」
東京都心部から郊外へ向けて快速電車で40分。JR中央線・立川駅5分ほどの立地にあるインド料理レストラン「マユール」は開店21年目を迎えた、当地では老舗のレストランだ。
東京・多摩地域の中核都市である立川市。玄関口のJR立川駅構内は、ルミネ、グランデュオという大きなショッピングモールがあり、駅から5分の立地には伊勢丹立川店と高島屋がある。飲食店は北口だけでも100を越える店がひしめき、毎年のように開店と閉店が繰り返されている。
5年前、リーマンショック以降の景気低迷で居酒屋を中心とした駅前外食店の価格破壊が進み、マユールも低迷の危機に立たされていた。外食消費が冷え込む中、ビジネス街でもあるJR立川駅では、郊外ファミリー層だけでなく見込み客の勤め人も居酒屋やファーストフードに流れる一方だった。
ランチ価格で1000円以上、ディナーでは2000円以上の高級カレーとインド料理を提供する店に、客の関心は薄かった。本来ならば一番忙しいはずの金曜日でさえ、数えるほどの来店しかない夜もあった。従業員の士気も下がる一方で、こんなことなら金曜は定休日にしようという意見さえ飛び出した。金曜定休というのは、飲食店にとって事実上の敗北宣言だ。
このままではいけない。危機感を募らせたオーナーの命により、店長の田中信幸さんは店内イベント開催の企画を進めることになった。
(店の名前「マユール」は「孔雀」という意味。駐車場をはさみ立川グランドホテルの並びで、宿泊の外国人客もしばしば訪れる。)
■始めるからには止めたら意味がない
飲食業界で20年以上のキャリアを持つ店長の田中さんは、イベントを始める3年ほど前に入社し、マユールの店長を任されていた。オーナーはインド人で、本業はIT関連企業を20年以上にわたり経営しているビジネスマンだ。飲食店の仕事は本業ではないが、趣味と言うまでの道楽でもない。店内でダンスイベントをすると決めてから、オーナーと田中さんは、パフォーマンスを依頼するダンサーや演奏者を探しに、足を運んだ。
飲食店のパフォーマンスと言えば、流行中のメイドカフェのように従業員が演奏したり踊ったりというイメージを持たれることも多い。そうではなく、プロダンサーのパフォーマンスを見せたいと考えていた。それも、無料で。金曜夜のダンスナイトは、当初から現在に至るまで、ショーチャージ、テーブルチャージは一切なし。食事料金のみでパフォーマンスが楽しめて、一緒に踊ることもできる。
「お客様に喜んで欲しくてやっていることですが、うちはあくまでレストラン。イベントは勝手にやっていることですから、料金は頂きません。パフォーマンスがあることを知らないで来店される方や、こういうイベントが好きではないお客様もいますし。ダンサーにお願いしているのは、お客様のそういう空気を読み取りながら、ノリよく、お客様をノセるように演じてほしいということ、どのテーブルにも平等に客席を回りながら踊ってもらうことです。」(田中さん)
毎週金曜はダンスナイトとしてから、正月三が日と東北大震災の日、そして今年2014年2月の大雪の日以外、休んだことは一度もない。 「始めた時から、やるからには絶対に止めないと決意していました。『そういえばあの店、前にイベントやっていた店だよね』って過去形で言われるのは嫌でしょう? かえってイメージダウンになります。それに、噂を聞いて来店されたお客様を裏切ることになってしまいます。」
そして今では、年末年始の宴会シーズンや送別会シーズンの3月、暑気払いの多い7月の金曜は予約でいっぱいの店になった。もはや金曜定休など、とんでもない話だ。 金曜夜の宴会なら、貸切予約であってもパフォーマンスにかかる料金は無料だが、最近では「有料でもいいから、金曜以外に貸切パーティーでパフォーマンスをお願いしたい」という予約まで入るようになった。
■継続することで客層が広がる
しかし、最初から今のような盛り上がりを見せていたわけではなかった。イベント時の来店数が2組しかなかった日もある。来店数が少なければ、パフォーマーの出演料だけで赤字になってしまう。 そんな状況の時はすべての広告費を、出演料に回した。<マユールはこういう店>と認知してもらうため、外食産業の本分である「お客様に楽しんでもらうこと」を貫くための費用と考えていた。「家で食べるのと違う味で、出前のような中食では経験できない楽しみがある。それでこそ、外食産業ですから。」非日常を提供する場所なのだから、毎週、毎月のように来店されなくても、年に数回、あるいは数年に1度の来店でもかまわないし、実際そのペースでの固定客も多い。やがて、そのリピート客が新しい顧客を連れてくることになる。
イベントを開始して3年目くらいから、コアなファン層の常連客がつくようになり、70席ほどの店は時に顧客とパフォーマーの熱気で盛り上がるようになった。ドリンク半額イベントなどの企画があれば、勢いを増して酔いと共に一緒に踊り出すお客様も増えてきた。 4年目の昨年は開店20周年という節目でもあり、近くのシティホテルに隣接する店へ移転。50人以上のパーティーにも貸切できる広さになった。すると、以前は友人や家族と訪れていた顧客が、今度は職場の宴会や結婚披露宴の二次会などパーティー会場として利用するようになった。 そして「いつもの居酒屋とは違う」非日常空間として、コアなファン層以外に客層が広がった。
初めてベリーダンスやボリウッドダンスに接するお客様も来店し、店の雰囲気に対する第一印象になり、口コミが広がる。 「当店で初めてダンスナイトにいらっしゃるお客様とは、ある意味『ガチンコ勝負』ですから、これからが本当のスタートと思っています。」(田中さん)
■店がある限り「続けること」が目標
マユールのダンスイベントは、ベリーダンスとボリウッドダンスの2つ。本来、ベリーダンスは中東の舞踊で、インドには古典的なインド舞踊や、映画でも知られる現代的なボリウッドダンスなどがある。そもそも、インド神話における最高神シヴァは舞踊の神様。ダンスはインドの娯楽であり文化なのだ。取材に訪れた日はあいにくゴールデンウィーク谷間の金曜日で、お客の入りは少ないとはいえ、10名のグループ客を含めて8組ほどが着席していた。この日はボリウッドダンスの日。生演奏は入らず、2人のダンサーによるパフォーマンスが行われる。出番前の控室をたずねた。
ダンサーは、Angela Raga(アンジェラ・ラーガ)さんとArati Puratana(アラティ・プラターナ)さんの2人。
(髪を下ろしている方がアラティさん、アップにしている方がアンジェラさん。
アンジェラさんは8才から、北インド舞踊であるボリウッドダンスを習い始めて10年以上。アメリカ人と日本人のハーフで、インド系かと思われるほどくっきりとした目鼻立ちが印象的だ。 アジアン・ビューティーな印象のアラティさんは、マユールで踊った経験のある友人から評判を聞いて、自ら出演交渉した)
2人ともマユールでは2年ほど継続して出演しており、普段はプロのダンサーとして舞台や他店のショーにも出演している。
「この1年くらい、新しいお客様が増えて、よりいっそう真剣勝負になってきた感じです」(アンジェラさん)
「混んでいる日はすごく盛り上がる一方、興味のなさそうなお客様に対しては(ご迷惑にならないよう)気を遣います。レストランの現場はメンタルが鍛えられます」(アラティさん)
19:30になると音楽のボリュームが上がり、各テーブルの料理のタイミングを見ながら、スタッフの合図でダンサーが入場する。微笑みながら見つめる人、思わず食事が止まる人、手拍子をしている人など様々に楽しんでいる。ダンサーが客席内をくるくると回りながら踊り、すきまを縫って店員が料理や飲み物を運ぶ。
にぎやかではあるが上品な雰囲気で、ダンサーの肌の露出が気にならないほどだ。曲のあいまにアラティさんが店のスタッフにそっと声をかけると、スタッフはまっすぐテーブルに向かった。お客様がショーだけでなく食事そのものも楽しめているかどうか、ダンサーたちも目配りをしている。
(スタッフは15人。調理担当のほとんどがインド人という本場の味だ。 「インド料理ってカレーのイメージで辛いと思われがちですが、辛くない料理もたくさんあります。ぜひお試しを」(田中店長))
最後に、今後の抱負や目標を田中さんにたずねると「店が存続している限り、パフォーマンスを続けることです。例えお客様がひとりだけになっても、今まで通り、頑固に、腐らずに続けること。」と返ってきた。
(店長の田中信幸さん。マユールを繁盛店に育て上げた。最近は取材を受けることも増えてきたそうだ。)
繁華街の駅前5分、競争の激しい立地においては、経営を続けること自体が目標でもあり、価値でもある。悠久のインド5000年に比べれば東京の5年など一夜の夢のようなもの。ひとたび決意をしたならば、この程度の辛抱ができないでどうするのかと、キャッシャー上に祀られた踊るシヴァ神の像に諌められたような取材となった。
インド料理レストラン マユール
東京都立川市曙町2-16-6 テクノビル 1F
電話 042-523-0410
第1・第3・第5金曜がボリウッドダンス、第2・第4金曜はベリーダンスを、19:30からと21:00の2回、30分ずつ開催している。
【ライタープロフィール】
佐々木美香
出版社勤務、フリーライターを経てコンテンツ企画制作事務所「サリーズ」設立。
国内旅行ガイド制作のため、関東近郊の飲食店取材を重ねる。東京都在住。
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